今回、登場していただいたのは岡山大学大学院教授の比江島慎二さんでした。
【市役所】
比江島さんの帰郷のタイミングに合わせて取材をさせていただくこととなり、2021年12月30日に日程を調整。取材班にとって年内最後の仕事となりました。年末年始を迎える期間のため、市役所前で撮影した写真には比江島さんの後方にお正月の飾りが!私の岩国史上初の、レアな写真が撮れました。
【錦帯橋】
錦帯橋は遠くから見るのもいいのですが、下から木組みの構造を見上げるのも好きなんですと語る比江島さん。錦帯橋と言えば、遠くから外観を眺めたり渡って楽しむ印象が強いと思いますが、この日は橋を渡らず、橋の真下から錦帯橋を堪能しました。
錦帯橋を見上げながら、比江島さんが文中で語られていた「子供のころにしか感じ取れなかった錦帯橋の香り」の話に。取材には市職員2名が同行しておりましたが、2人とも特別錦帯橋の独特な香りを感じた記憶はなかったため、当時の比江島さんがどんな香りを感じていたのかは謎のままでした。一体どんな香りだったのか、気になるものです。
【東洋紡沖の海岸】
山と海、たくさんの自然に囲まれた岩国の中で、瀬戸内海に面した灘町には、東洋紡株式会社の岩国事業所があります。繊維や産業・生活資材、成形材料、機能樹脂など様々な物を製造している工場の裏手には、灘町から隣の尾津町まで海岸に沿って道が続いています。
比江島さんも久しぶりに訪れたようで、懐かしさに浸りながら、昔はこのあたりで釣りをしていたんですよ、と昔の思い出を語ってくださいました。
天気のいい日には、この道に立ち海を眺めると、対岸の周防大島町まではっきりと見えます。また、ここで眺める日の出はとても綺麗だそうですよ!
【ツバメ・イータイム】
株式会社ツバメ・イータイムは、電動バイクや電動アシスト自転車を扱う会社で、アジア地域における渋滞・大気汚染などへの対策や、貧困地域での収入向上・雇用創生など、豊かで活力ある持続可能な世界の実現を目指して事業を展開しています。
比江島さんは岡山大学大学院教授として教鞭をとる一方で、ツバメ・イータイムのエネルギー分野においての顧問としても就任しています。
就任に至るまでのエピソードを伺ってみたところ、社長である山本さんと比江島さんは、同じ岩国高等学校出身の同級生ですが、高校時代には面識がなかったそうです。近年、情報収集・発信の場として利用していたFacebookをきっかけに出会い、一緒に仕事をすることとなったとのことでした。
お二人以外の同級生も様々な分野で活躍しており、今でも意見交換などを通してお互いに良い刺激を与えあっているそうです。同じ岩国市出身ということで繋がりをもち、ともに働く仲間として高めあえるのは、とても素敵なことですね。
今回、比江島さんを取材させていただくにあたり、事前に「ご参考までに。」と比江島さんの現在の研究テーマについての資料を頂きました。「次世代の洋上風力発電としての自律高空帆走発電の提案とDeepSky構想」というもので、内容としては「私の岩国 その3」にて語っていただいた、Hydro-VENUSを用いた海洋エネルギーの活用についてより詳しく書かれており、Hydro-VENUS技術について触れている部分もあります。
再生可能なエネルギー資源として利用できそうなものとして、洋上風力に着目した比江島さんは、「自律高空帆走発電」を提唱されています。このシステムは蓄電池を内蔵した浮体を洋上に浮かべ、凧(カイト)により上空の風力をとらえることで、水中に搭載した水流タービンが回り、その力で発電するというシステムです。「自律」という言葉が入っているように、将来的には自動制御で凧を操作・自走することができ、また電力が十分蓄えられたら自らステーションへ帰って、電力を供給するといった、無人運用が想定されています。
環境省などの試算によると日本周辺(沖合30km以内)の洋上風力は、原発1200~1500基分に相当するということで、30km以上の沖合になればそれ以上の膨大な風力が眠っているそうです。まさに宝の山です。エネルギー資源の乏しい日本にとっては、その一部を取り出すだけでも、持続可能な社会の実現への大きな一歩となると思われます。
更に自律高空帆走発電船は、風力発電を行うだけでなく、台風や津波などの情報を高精度で捉え早期警戒を可能にする洋上防災観測や、海難救助や離島防衛、不審船監視など海上保安面での監視を24時間体制で行う機能などを備え、「洋上インフラ」の共通プラットフォームとして活用することも考えられています。
研究開発するにあたっての課題はありますが、実現して実際に取り入れられれば、多くの再生可能エネルギーを貯えることができ、洋上においてさまざまな観測・情報通信が可能となります。
拝読してみて素人ながらに思ったことは、日本を明るい未来へ導くための希望にあふれた凄い研究だなということと、こういった発想はどうやったら思いつくのだろう、ということでした。こんな自分では到底思いつかないような技術について研究している方は、幼少期にはどうやって過ごしていたのだろう、どんなお方なのだろう等、様々なことを思い浮かべながら、取材当日を迎えました。
実際にお会いして、思い出の場所を巡りながら過去のお話を伺ってみましたが、少年時代の比江島さんは、海や川で船を流して遊ぶことや飛行機、プラモデルなどが好きなごく一般的な男の子でした。比江島さんは、過去のお話と合わせて、当時好きだったものや経験はこんな風に現在の自分に繋がっている、というお話もしてくださいました。好きだった海は洋上発電に、船遊びはHydro-VENUS技術に使われた流体力学に、飛行機は航空工学に、プラモデルや錦帯橋の木組みは橋梁工学に。これまで意識してはいなかったけれど、これらに囲まれて岩国で育ったことが、現在の自分の研究テーマに影響していると語られました。
取材を終えて、比江島さんの研究における様々な視点からの発想は、上記のとおり過去のご自身の経験や好きなものが起点していたことがわかりました。文中でご本人が語られていたように、もし比江島さんが岩国に生まれていなかったとしたら、現在の研究・事業は存在しなかったかもしれません。ここ「岩国」に、比江島さんの人生に大きな影響を与えたたくさんのものごとがあったことを大変嬉しく感じました。
また、比江島さんは経験や繋がりを自身の糧にすることが大変上手な方だなと思います。岩国での経験を自身の研究の発想へつなげ、ツバメ・イータイムの山本さんをはじめとする同級生たちとの繋がりは自身の新たな事業・取組へとつながっています。自身の周りで起きるものごとを上手く吸収して、自身の持つ能力として様々なことに反映していく。それは、様々なことを検証し、模索していく研究者にとってとても重要なことだと思います。
今後も、地球環境の改善に向けて貢献していきたいという比江島さん。
Hydro-VENUS技術を搭載した自律高空帆走発電での発電が実現し、再生可能エネルギーの大きな動力源となる未来を心待ちにしています。
大学教授としてのお仕事や、ご自身の研究でご多忙の中、取材にお付き合いいただきありがとうございました。
今後益々のご活躍を心よりお祈りいたします。