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「豊かな里山としての愛宕山、ライフワークとなった研究と岩国との関係」 比江島慎二さん その4

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年4月1日更新

【豊かな里山としての愛宕山、ライフワークとなった研究と岩国との関係】

 

(1) 愛宕山の豊かな自然と生態系

 前回、海洋エネルギー研究の発想の源となった瀬戸内海を取り上げましたが、私が海洋エネルギーをはじめとする再生可能エネルギーに取り組んでいる一番の理由は、言うまでもなく地球温暖化の問題にあります。私が子供のころには体験したことがなかった35度に達する高温が、現在では当たり前の気候になりつつあります。毎年のように繰り返される水害も、これまでの治水対策が機能しないほどの激甚化が進んでいます。今回は、瀬戸内海とともにもう1つの私の少年時代の遊び場であり、自然環境への意識を育んでくれた愛宕山を取り上げたいと思います。


 当時の瀬戸内海は海洋汚染がひどかったのですが、愛宕山はこれとは逆に、非常に豊かな自然環境を体験させてくれました。私の実家の裏山が愛宕山だったのですが、愛宕山から流れ出る清流にはかつてイモリやホタルが棲み、周辺には豊かな蓮田を形成していました。毎年、山頂の愛宕神社では祭りが催され、ヒヨコやヨーヨーの露店が並び、土俵では子供たちの相撲大会が開催され、たいそうな賑わいでした。山頂からは市内や瀬戸内海の美しい島々が一望でき、私の心の原風景の1つになっています。まさに「里山」と呼ぶにふさわしい存在でした。「里海」としての海の豊かさを守るには、そこに豊富な養分を供給してくれる「里山」の存在が重要であることはよく知られています。近年、瀬戸内海の海の養分が減って漁獲高が減少していると聞きますが、その原因の1つにはこのような豊かな里山の消失が関係しているのかもしれません。

 

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↑ 移転後の愛宕神社

 

 

(2) 愛宕神社に参拝

 今回は、愛宕山の痕跡とも言える移転後の愛宕神社を訪れました。当時の社と同じかどうかは分かりませんが、土俵なども再現されていました。果たして愛宕神社の神様はまだそこに御座すのか、あるいは埋め立てとともに瀬戸内海の海の底に沈んでしまったのかは定かではありません。

 

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↑ 愛宕神社に参拝

 

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↑ 愛宕神社前に再現された土俵

 

 

(3) 愛宕山のもう1つの側面

 私が生まれ育った緑ヶ丘地区は愛宕山の麓にありますが、その周辺にはかつて多くの防空壕がありました。防空壕と言ってもコンクリート製の非常に立派な作りで、単に人が避難するためだけのものではないことはすぐに想像がつきました。昔聞いた話によると、戦時中に紫電改という戦闘機をそこで組み立てていたとのことです。(※)暗闇が奥深くまで続き、日本神話に出てくる黄泉の国の入口のように見えて、子供ながらに恐怖心を抱いたものです。肝試しで少し中まで入ったことはありますが、ひんやりとした重苦しい空気を感じて、とても奥まで進むことはできませんでした。

※編集註
文中にある防空壕内での戦闘機の組み立ては、第2次世界大戦末期に、広島県呉市にあった防空廠(飛行機工場)を疎開させるため、旧日本海軍が作ったものです。空襲を避けるため、地下に作られました。全長2キロメートルにも及んだ地下の組み立て工場は、第1号機が完成する前に終戦を迎えたため、戦局に影響を与えることなくその役目を終えました。

 

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↑ 緑が丘地区に現存する防空壕(現在は入口が遮蔽されているようです)

 

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↑ 防空壕の由来に関する説明板

 

 ただ、飛行機好きだった私は、そこで飛行機が作られていたという話はとても興味がわきました。今回は訪れませんでしたが、私の母校の愛宕小学校の窓からは、尾津沖の海が見渡せ、岩国基地の飛行艇が海上で着水・離水するのを眺めるのが好きでした。岩国基地の日米親善デーで飛行機を見たり、日本と違って辛い味付けのアメリカのコーラとか、ハンバーガーを焼く匂いとか、そういったものも私にとっての岩国の大切な思い出です。実は、私の研究テーマのHydro-VENUSには、橋梁工学だけではなく、航空工学の技術も活かされています。振り子の先端から発生する好ましくない渦を抑制するため、先端を一定の角度で折り曲げているのですが、これはウィングレットと呼ばれるもので、ジャンボジェット機の翼の先端が折り曲げられているのと同じ機能を持っています。また、前回ご紹介した自律高空帆走発電のカイト(凧)をJAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同開発するなど、Hydro-VENUS技術を航空分野に応用する試みも始めています。

◆飛行機のウィングレット:https://weathernews.jp/s/topics/201808/080185/<外部リンク>

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 ↑ ウィングレット付きのHydro-VENUS

 

 

(4) ライフワークとなった研究テーマと岩国との関係

 あまり意識したことはなかったのですが、これまで紹介してきたように、錦帯橋、瀬戸内海、愛宕山などを通じて経験した少年時代の岩国での思い出が私の研究の根源にあり、子供のときから好きだったそれらのものを無意識に選択しながら、現在の研究テーマにたどり着いたように感じます。もし岩国に生まれていなかったら、ライフワークとしての現在の研究テーマに出会えなかったかもしれません。私の4分の3は九州の血筋で、岩国由来の血筋は4分の1だけなのですが、縁あって岩国に生まれたことが研究者としての私の人生に大きく影響したと感じています。

 

                                        比江島 慎二