【海洋エネルギーの道に導いてくれた瀬戸内海】
(1) 東洋紡沖の瀬戸内海の思い出
私は子供のころから海が好きで、近くの東洋紡沖や電車に乗って大畠瀬戸などによく魚釣りに行っていました。もっと幼い時には父の自転車の後ろに乗せられ、姉と三人で東洋紡沖や尾津沖によく散歩に出かけました。その頃は工場排水による海洋汚染がひどく、海は真っ黒に汚れて赤潮が多発し、工場の近くを通るだけで鼻を突くような悪臭が漂っていました。それでも私にとっては懐かしい思い出の1つとなっています。現在は悪臭もなく、すっかり透明度の高い美しい海になっているのに驚いています。また、尾津沖一面に広がる蓮田も、夏に花が咲く頃にはまさに極楽浄土のような美しい景色となり、私の心の原風景の1つとなっています。
↑ 東洋紡沖にて撮影中
↑ よく魚釣りに行っていた東洋紡沖の防波堤
↑ 尾津沖の蓮田の風景
(2) Hydro-VENUS(ハイドロヴィーナス)を用いた海洋エネルギーの活用
前回、私の独自技術であるHydro-VENUSが生まれた経緯についてご紹介しましたが、Hydro-VENUSの活用先として選んだのが、潮流発電や洋上風力発電などの海洋エネルギーです。瀬戸内海は、大畠瀬戸の他、関門海峡、来島海峡、鳴門海峡など、世界有数の潮流エネルギーの宝庫です。このような潮流場の海底に、長さ20mぐらいの巨大なHydro-VENUS振り子を多数並べれば、潮流発電で相当なエネルギーが得られると考えています。Hydro-VENUSの活用の場として潮流発電や洋上風力発電などの海洋エネルギーを選んだのも、子供のころに親しんだ瀬戸内海の存在が大きかったと思います。自身で小型船舶免許も取得するなど、少年時代の遊びの延長として、今も海が重要な研究活動の場になっています。
また、風車の代わりにカイト(凧)を使った、次世代の洋上風力発電「自律高空帆走発電(じりつこうくうはんそうはつでん)」も開発しています。カイトで洋上風力をとらえ、カイトを8の字飛行させることで大きな曳航力(えいこうりょく)を発生し、その力で浮体(ふたい)を曳航しながらHydro-VENUS水流タービンで発電するというものです。発電した電力は浮体内に蓄電あるいは水素として貯蔵し、海上を自由自在に帆走しながら発電・蓄電するので、風車のように特定海域を占有することなく、漁業の邪魔になりません。現在の風車ではコストが高すぎて取り出せない遠洋の膨大な洋上風力も取り出せるようになります。また、観測装置、監視装置、通信機器、各種センサー等を搭載することで、洋上の気象防災観測、海上保安、海底資源探査、洋上通信、海洋プラスチックごみ自動回収、電動船の給電ステーションなど、発電以外の多様な用途にも活用できるのが大きな特長です。
排他的経済水域を含む日本の海は、世界第6位の広大な面積を誇るものの、これまでほとんど活用されてきませんでした。自律高空帆走発電によって、単に洋上風力でカーボンニュートラルやエネルギー自給率100%を実現するだけでなく、この広大な海洋空間を仮想的な国土のように高度に活用しようとする「DeepSky構想」を提唱しています。詳しくは岡山大学比江島研究室ホームページをご覧ください。
◆岡山大学比江島研究室ホームページ(DeepSky構想):http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~hiejima/<外部リンク>
さらに、Hydro-VENUS技術の社会実装をめざして、大学発ベンチャー(株)ハイドロヴィーナスも立ち上げました。ハイドロヴィーナス社では、気候変動で多発する水害に対し、Hydro-VENUS技術を原理とする「振り子式流速計」を新たに開発し、AI技術と連携した水害予測システムの実現に取り組んでいます。
◆ハイドロヴィーナス社ホームページ:http://www.hydrovenus.com/<外部リンク>
↑ Hydro-VENUS潮流発電機の海底への設置イメージ
↑ 次世代の洋上風力発電として開発中の「自律高空帆走発電」のコンセプト
比江島 慎二