小学生の頃は神社の境内で鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいました。夏休みになるとラジオ体操の会場になります。ここが一杯になるほど沢山の子供がいたのが噓のようです。ラジオ体操の始まる時間に遅れそうになると朝から全力疾走でした。
二ツ野地区の守り神白羽神社には、江戸時代から伝わる伝統芸能「山代白羽神楽」があります。山口県の無形民俗文化財にも指定されており、1964年の東京オリンピックの芸術部門展示にも選抜されて参加しています。毎年神社の秋祭り前夜祭として夜中から明け方まで舞われるこの神楽を観るのは、娯楽の少ない田舎ではとても楽しみなものでした。笛や太鼓の音色にあわせた迫力のある舞、絢爛豪華な衣装やお面、子供ながらもとても神聖で特別な空気を感じていました。
私が最も好きな演目は「八岐大蛇」(やまたのおろち)です。15mもあると思われる大蛇が縦横無尽に暴れまわり火を噴き、時には観客を威嚇したりと、激しくそして華麗に舞う姿は圧巻です。とても一人の人間が操っているとは思えない見事な技です。最後には須佐之男命に退治されてしまいますが、散り際まで美しく、子供心にはらはらわくわくしながら見ていたことを思い出します。
今回お話を聞かせて頂いたのは、山代白羽神楽保存会会長の巻郷(まきごう)満さんとお父様の巻郷哲夫さんです。哲夫さんとは、中学生の頃部活の終わりに一緒に帰ることもありました。
この神楽を後世に伝承していく為には人材の確保と育成が大切ですが、舞手の高齢化や人口減少が大きな課題になっています。現在「北中山こども神楽」の指導もされ、後継者の育成に力を注いでおられます。団員の皆様は日々の稽古に、出張公演などもされながら、伝統ある白羽神楽を途絶えさせない為の活動に時間を割き全力で守られています。
〇衣装着用体験
初めて衣装を着させて頂きました。10kg以上あるそうで立っているだけでも大変ですが、これを着てお面をつけてあの激しい舞を舞うのは超人技です。手を下げずに舞うそうで、誰でもできるものではなく相当な訓練が必要と思いました。
〇衣装
金糸、銀糸の刺繡が施された豪華な衣装や芸術的なお面は、舞と同じく大切に継承されている財産です。200点以上もあるというこれらの品物は、保管が大変難しく神経を使うそうです。湿気が大敵で、カビの発生に悩まされるとのことですが、クリーニングもできない繊細な素材なので、手入れは虫干しや乾燥など人手での作業になります。舞の他でも大変なご苦労をされているお話を伺いました。
物心ついた頃から極々当たり前に親しんできた神楽でしたが、今回お話を伺ってこの伝統を継承して後世に伝えていくことがどれ程の苦労なのかを初めて知りました。先祖から渡されたこの地域の大切な財産ですので、保存会の皆様のお力だけでなく、多くの方々の力も必要だと感じます。
また、沢山の人々に観て関心を持って頂くことで盛り上がっていくのではないかと期待しております。私もこれから末永く応援していくことをお約束しました。
〇倉庫改修
現在、衣装の保管倉庫の改修工事が行われています。団員の皆様の懸案であった衣装の保管環境を改善する要望の詰まった立派なものが令和4年春頃完成の予定です。一歩一歩着実に、そしてできることから実行していかれる保存会の皆様の行動力には頭が下がります。
巻郷さんのご自宅にもお邪魔し、帰りには採れたての大根など新鮮なお土産を沢山いただきました。満さんは美和中学校の体操部で私の後輩だったことも知りました。色々なところで人は繋がっているのですね。
三浦由子