この歳になると、昔の思い出の地をアチコチ訪ねてみたくなるものです。そんな矢先に『私の岩国』の話を頂きました。「棚からぼた餅」というのでしょうか、「渡りに船」というのでしょうか。内心「欣喜雀躍」してお誘いを受け、訪問を始めました。
ところが、です。各地を訪ねてみると、予想していたとはいうものの半世紀前の姿をそのままとどめているところはそんなにありません。昔の名残はあっても、記憶の中のかつての家とはどこか異なり、言葉を交わすつもりだった祖父母たちの姿も見えません。他方、記憶していたこと以外のアレコレが蘇り、その時々の出来事や友人・親戚などの顔が浮かんできます。それどころか、目標に向かって今を堅実に生きている人達の気概に接することにもなりました。収拾がつかなくなって、カメラを手にしたまま何度か立ち尽くしてしまいました。
『私の岩国』の企画は、昔を懐かしむだけでは終わらなかったのです。「時は流れない。それは積み重なる」という、かつてのテレビ・コマーシャルを思い出してしまいました。私の人生に、また新たな1ページが加わったのです。
気が付けば、冬の陽は西方の大黒山に傾き始め、島田川の川岸の枯れすすきは北の蓮華山を背景に、音もなく風に揺れています。そして、見上げれば白い雲の向こうに、未来につながって行く澄んだ青空です。
私たち戦後生まれを「団塊の世代」と呼んだ人がいます。他方、「戦後に生まれ、戦前に生きた世代だ」と言った人がいます。戦後に生まれたことは紛れもない事実ですが、戦前を生きたのかどうかは、未来の戦争を危惧したことによる推測です。
古希を迎え、今も変わらぬ周囲の山々の姿をいとおしく思うにつけ、今後が戦前でないことを願わずにはいられません。
お付き合いありがとうございました。
末筆ながら、この度の「私の岩国」では、友人諸氏並びに岩国市広報戦略課、関係者の方々に大変なご尽力を頂きました。心より感謝申し上げます。