小説「おはん」は、岩国市出身の小説家、宇野千代先生が、10年の歳月をかけて望郷の思いを書き上げた代表作です。
その小説を名匠・市川崑監督が映画化。1984年公開。
主演は吉永小百合さん 出演 石坂浩二さん、大原麗子さん。日本アカデミー賞8冠受賞です。
ロケ地は主に近江八幡市なんですが、宇野千代先生がイメージされた町が、子供の頃目に映った岩国だそうです。
その場所を巡ってみたいと思います。
臥竜橋(がりょうばし)
冒頭、幸吉がおはんと再会する橋。
物語の全てが始まります。
幸吉が軒先きを借りた場所。
今は食事処よ志多”
人形芝居が行われた巴座という芝居小屋。
元中央フードがあった場所。
今は空き地になっています。
幸吉が住む、おかよの芸者屋があった鍛治屋町。
昔ながらの細い道が印象的です。
この辺り当時の地名、鉄砲小路、大名小路、曲尺町などそのまま使われてます。
劇中、権現さまの秋祭りが行われた椎尾神社。
階段の周りにおもちゃ屋がたくさん出店。
上って神社の鳥居。とても素敵な場所でした。
悟が落ちた龍江淵
こちら総天然色でございます。
鮮やかさと恐怖を感じさせます。
お茶屋の半月庵
劇中何回も出てくる半月庵。現在は割烹旅館です。
「幸福は遠くにあるものでも 人が運んでくるものでもない 自分の心の中にある」
町のいたるところに、宇野千代先生の幸福の言葉があります。
訪れた際は、ぜひ探してみてください。
当初行く予定ではなかった宇野千代先生の生家を訪れました。
国の登録有形文化財に指定されてまして、日本庭園の春は桜、秋は紅葉が見事です。
庭を歩き回ったり、表札を何度も見たり、机の前に座ってみたり。
おはんバス
車内は生い立ち、功績、作品も展示されてて小さな動く記念館です。
おはんの文学碑
紅葉谷公園の敷地内にあります。
ちょうど雨が滴ってて情緒あふれる雰囲気でした。
訪れた日はあいにくの雨でした。しかし「おはん」の大きな分岐点は”雨”なんです。
雨は二人の人生を大きく変えてしまいます。この日はそれを再現するように雨でした。
それぞれの場所に行きながら、映画の1シーン1シーンを思い浮かべました。
吉永さんの一歩引いた凛々しさ。
大原さんの切符のいい、気強くそして綺麗さ 。
宇野先生は恋多き女性だったそうです。
二人の女性の生き様を、理想とする自分の中間地点と見立て、石坂さん演じる幸吉という、だらしなく憎めない男性像を求めたのではないでしょうか。
小説「おはん」のあとがきの中で宇野先生はこう言われてます。
小説の客観的な出来ばえとは何の関係もないですけれど、ただ、ながい間、この小説だけにかかっていた作者の一種のもう執のようなものが、作中の人物に反映したような錯覚を、私が持ったのではないかと思います。と。
映画「おはん」は、宇野千代先生と市川崑監督の世界感が、見事に融合された素敵な映画です。
小説「おはん」を読みこの場所を巡って、映画「おはん」を観たら、うなずくくらい新しい発見が待っているはずです。
松林慎司